『子供の「脳」は肌にある』って本を読んだとき、京大霊長類研究所のチンパンジーの話が書いてあった。

人間が飼育しているチンパンジーは育児放棄する率がとても高くて、半分くらいは人工保育になってしまうのだそうだ。もちろん野生なら群れで子育てを学ぶのでそんなことにはならないらしい。それで、チンパンジーの研究者である松沢哲郎氏の言葉が紹介されていた。

「子育ては種族繁栄の基本的な行為なのに、本能に組み込まれていない。それは、子育ては子どもの個性に柔軟に対応してやる必要があるから、あらかじめ決められた一つの方法ではかえって不都合が生じるからかもしれない」

おぉぉぉ~、面白い! と思って、松沢氏の本『進化の隣人 ヒトとチンパンジー』も読んでみた。

でもこの本には、↑のような記述はなくてちょっと残念。それでも面白そうなことはいろいろ書いてあった。人間とチンパンジーのDNAの違いはたった1.2%だそうで、なんとチンパンジーは、ヒト科なんだそうで…

「教育の霊長類的基盤」と題して、面白い記述があった。

「アイとアユム、チンパンジーの親子を見ていて気づくことは、親が子どもを叱らない、叩かない、邪険にしない、無視しないということです。そうした親密なきずなの中で、親やまわりの仲間を手本として、子どもは自発的に学びます。親は、そうした子どもの働きかけにきわめて寛容です。
 「学ぶ」ということばは「まねぶ」すなわち「まねる」ということばに由来しているそうです。チンパンジーに教育があるとしたら、まず重要なことは、親子のきずな(あるいは先生と生徒の信頼関係)であり、子どもの側の主体性でしょう。
 逆にいえば、親(先生)の側から「ああしなさい」「こうしなさい」という押しつけもないかわりに、「こうしたほうがいいよ」という助言もありません。「よくできたねえ、すばらしい」とほめることもありません。親(先生)は、あくまでちゃんとやってみせる、お手本を示すだけです。そして、親(先生)は子どもが自発的に学ぶようすをつねに見守っています。「親は子どもの背中を見守り、子どもは親の背中を見て育つ。」そのあたりに教育の霊長類的基盤があるのかもしれません。」

ほっほぅ~、面白いね。でも、これ、ライオンとかオオカミでも一緒な気がする…。ほんと、動物って、子供を叱らない。パンダのシャンシャンも、体中ママの唾液でベロベロになって(ピンクなのは唾液のせいらしい!)、いつもママの周りでコロコロと一人遊びをしている。特にママが何か教えてるわけじゃない。みんながアレを見てなごむのは、本能的に、アレが哺乳類の親子の正しい姿だって感じるからなんだろうなぁ…。

著者の松沢氏は、チンパンジーに人間の文字を教えた研究で有名。そういう、チンパンジーの生態ではおつりがくるようなことを教えるコツについても書いてあった。

「第一は、直後のフィードバックです。正しいことをしたときに、「そうだ。すばらしい。よくやった」とほめる。それがとてもたいせつです。あとから「さっきのはよかったよ」ではだめなのです。
 第二は、その基準がふらつかない。「そうだ。すばらしい」と今日は言ったのに明日は言わない、というのはだめなわけです。最悪なのは、同じことをやっているのに別の日は「なんだそんなのは!」と叱ったとしたら、生徒は混乱し、めげてしまいます。常に正確なフィードバックをすることが重要です。
 第三が、正のフィードバックです。これは負のフィードバックに対することばです。正のフィードバックというのは、「そうだ。すばらしい」と、ほめてほめてほめ倒すやり方といえるでしょう。それが有効です。 ―中略― 「違う、違う」と言う先生だと、もしその人がいないと、とてもほっとします。間違っても「違う」と言われないわけですから、あの人さえいなければもっと安穏な生活ができるのに、と思っても不思議ではありません。 ―中略― まとめると、(1)直後のフィードバック、(2)安定した基準、(3)正の強化によって維持する。たぶんこの三つは、人間であれチンパンジーであれ、どのような学習においても重要なことだと思います。」

なるほどねぇぇぇ~。そのへんが、ヒト科のデフォルトなのね…。